Primal Watersと名付けられた3種のEdTが2018年に公開されました。調香は全てGivaudanのRodrigo Flores-Rouxが担当。キャップはSanti Burgasのオフィス近くにあるヘーゼルナッツの木から作られたもので、間伐材を利用しているそうです。各タイトルはANTの頭文字であり、それはロゴのアリであり、彼の名前Santiagoの中に含まれているもの。そう、シンボルのアリは彼の名前の中にあったんですね。AとNは15%、Tは13%でEdTとなりました。EdTということで価格も120ユーロと控えめなものとなりました。

■[A] ADH (2018年)

Aroma de Hormigueroの略で、Hormigueroとはアリ塚のこと。そう、テーマはアリの巣なのです。Formate系の香りは日本語でギ酸と表記されますが、蟻酸とも表記されるように、アリからその名前が付けられました。だから、自然界に存在するカルボン酸の1つであるギ酸系の香りを組み込んで地下トンネルを表現したのです。調香はRodrigo Flores-Rouxが担当。

自然界に存在するギ酸、海藻アコード、フレッシュマッシュルームアコード、ジェオスミン、ガルバナム、マスティック、パチョリ、ツリーモス、ファーバルサム、ベチバー、アルテミジア、ペティグレン

サンプルのテスターで試した際は、もっとジェオスミンが顕著に香っていたのですが、随分とアルテミジアの効いたアロマティックな香りとなりました。ジェオスミンとは雨上がりの土っぽい匂いで、とても高価な合成香料です。その湿った土の匂いをアクセントに、土の中の香りを表現したんですね。土の中が熱いことはなく、冷たさを感じる香りとなっているのがリアルさで、とてもフレッシュな印象を受けますが、最後は甘さのあるファーバルサムとモスが渋く肌に残ります。自然界にあるギ酸は、Geranyl formateやCitronellyl formateなど、少しローズ調のニュアンスの香料を使用したのだと思います。(22/07/2019)


■[N] NYC (2018年)

メキシコ生まれのメキシカンであるRodrigo Flores-RouxにとってのNYは、まさに今の活動拠点。もともと2008年に自分のために作っていたのだというコロンを、同じく2008年にスタートしたSanti Burgasのために10周年ということで、お借りすることに。

グリーンベルガモット、グリーンマンダリン、ネロリ、グレープフルーツ、オレンジブロッサムウォーターアブソリュート、カルダモン、ジンジャー、コリアンダーリーフ、アグライア、マグノリア、パチョリ、ベチバー、サンバックジャスミンアブソリュート、アンブレットシードアブソリュート

とてもユニークなシトラスで始まります。それは、シトラスなのにフレッシュではないから。明るく弾けるようなシトラスではなく、アイロンで温められたような、コインランドリーの蒸気のような温かいシトラスで始まるのです。そこには微かなスパイスの欠片も渋く重なり、ありがちなシトラスコロンではない形へと導かれ、やがてはランドリー系のムスクとなって消えていきます。様々なシトラスノートを組み合わせ、自分のために作った豪華さを密かに漂わせる香り。(22/07/2019)


■[T] TDM (2018年)

Torroella de Montgri(トレリャ・デ・モングリ)は、Santiago君が生まれ育った町であり、彼は今もそこを拠点にしています。だからブランドが生まれた町の香りを作ったわけです。海も近く、河もあり、自然が豊かで芸術家たちも多い街で、薬草がたくさん自生しているのだそう。

ワイルドカモミール、ラベンダー、ローズマリー、タイムフラワー、ユーカリアブソリュート、ラブダナムアブソリュート、シスタス、サイプレス、ファーバルサム、シダーウッド、セージ

これはもう、精油のお祭りです。収穫祭のようなハーブ祭りで、ラベンダーにカモミール、ローズマリー、タイムが重なり、アロマティックに香るのですが、ブレンド精油と違う点は、全てを合成香料で包み込んでいる点にあります。おそらく仄かなフレッシュノートの中に全ての精油を溶かしこんだのでしょう。精油同士が爆発するような香り方ではなく、ゆっくりと穏やかに香るようになっているのです。その後香りはゆっくりとオリエンタルへと傾き始めるのですが、重くはなく、どこかウォーターという名前に通じるフレッシュさが感じられるラストノートとなります。(22/07/2019)